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インプラントとは一体何なのか

2019年12月23日

インプラントの歴史

1950年代位までは、虫歯や歯周病などで歯を喪失した後の治療として、世界的に行われていたのは義歯による咀嚼リハビリテーションです。

しかしこの義歯が、欧米では寿命の延長や食生活の変化で、生活に馴染まなくなってきました。一番大きな事は「肉が食べられない」ということです。

インプラントは1950年代に研究が進められました。スェーデンが発祥です。当時、ヨーロッパでは肉が主食でした。「義歯になると肉が食べられない。味が良くない」と言われていました。

義歯に代わるものの研究が積極的に行われていました。
脱着しなくてもいいもの、固定されたもの歯に近いものの要望が高かったようです。そんな「夢の治療法」と言われるものが盛んに研究されていました。

その中の一つで、戦争帰還兵の義眼の研究が進歩していました。
目の周りの骨にチタン製のスクリューである「インプラント」と言われるものを埋入し、義眼をボタンの様に留めるというものです。
その基本となるデータとして、犬の骨に「チタンという金属が良く結合」するということです。
そして見栄えの良い義眼の作成に成功したのです。

その義眼の技術を基本に整形外科の骨折や奇形の整復の治療にインプラントを用い、大きな進歩と成果を得ることができました。患者の機能回復が劇的に改善したのです。
従来、生涯車椅子を強いられる病傷でも、独立歩行を可能にし、生活活動範囲も広がりました。
それまで骨折患者の日常的回復はかなり難しいものでした。
ギプス固定を長期間行う、杖を常に使用する、車椅子で移動を余儀なく強いられ、行動可能な範囲は非常に狭く、介助者の負担は大きいものでした。
それらの負担を開放し、自立歩行や自立生活を確立させたのがインプラント治療です。

骨と埋め込んだインプラントが結合する現象

さて、「インプラント」について少し掘り下げてみます。
ここでは口腔内で使用されるデンタルインプラントを簡略化して「インプラント」として説明します。
歯を喪失した欠損部分の骨の中に人工的に作成した歯根を埋めの込み、骨と結合させ、天然歯の機能を回復させるための歯の代用物を「インプラント」と言います。

ところで、骨と埋め込んだインプラントというものは本当にくっつくのでしょうか。また、なぜ結合するのでしょうか。

骨と素材と結合させるために、これまでに多種多様の試みを世界中の多くの研究者が行ってきました。
材質は鉄、ステンレス、アルミニウム、サファイア等です。
色々な素材の中で、犬を使った動物実験ではなぜか「チタン」だけが骨と結合する現象が明らかになりました。

チタンと結合するメカニズムについては現在も研究が進められています。
これまで分かっていることは、チタンには「免疫寛容」という作用があるという事です。
これは通常、動物はチタンのような異物が体内に入り込むと、排除しようとする作用があります。骨に馴染まずインプラントが浮いてくるといった状態になってしまいます。
チタンはこの免疫を和らげる作用である「免疫寛容」という現象を生体に誘導するので、埋め込んだチタン素材に対する「拒否反応を起こさせないようにしている」ということがわかっています。

免疫について少し詳しく説明すると、これは動物が持つ、細菌、ウイルス、カビ、カビなどの異物から身を守るシステムです。
年齢や環境で変化する事があります。
アレルギーとは、免疫反応で、体内から異物を排除しようとしている現象です。

骨と埋め込んだインプラントが結合する「チタン」について

ここで、チタンとはどのような金属なのか触れてみましょう。
チタンは軽い、強い、錆びにくいなどの特徴があります。
この「錆びにくい」はチタンが唾液に溶けてイオン化することなく、アレルギーを起こしにくい金属であることを示しています。
比重は銅の1/2、強度は鉄の2倍です。いわゆる、チタンと言われるものには純チタンとチタン合金があります。
チタン合金は一般的に、メガネのフレーム、時計、自動車の部品なに用いられています。
メジャーブランドのインプラント用のチタンは純チタングレード4の最高品質です。口腔内では、ほぼ100%溶解する事なく、経年劣化しません。

インプラントは純チタンを骨のサイズに合わせ、ネジ山を切削し、これを顎の骨の中に埋入させます。骨との結合には1~3か月位を要します。
そして骨と結合したインプラントに上部構造物を装着します。その結果、歯として噛めるようなになります。

「噛む」ことが非常に重要である理由

骨には適度なストレスが掛かることが必要です。ストレスフリーの状態では脆く骨折し易い性質を持っています。
宇宙飛行士が地球に帰還後に骨密度を測定すると、だいぶ低下しているというのは有名な話です。
顎の骨の周りには大きく、力強い「咀嚼筋」と言われる筋肉が付着しており、噛むことで骨に適度なストレスをかけています。
歯を喪失し義歯で咀嚼する場合には、全て自分の歯で噛むときと比較して、部分義歯で60%、総義歯で30%位の力でしか噛むことができません。
一方、インプラントでは、自分の歯とほぼ同じ位の力で噛むことができます。
これは即ち、「顎の骨を丈夫に保つ」ことに大変に大きな役割を果たします。

インプラントの脳に対する作用も考察したいと思います。
大脳、小脳、右脳、左脳、海馬、松果体など聞いたことがあると思いますが、これらの部位が「ニューロンネットワーク」と言われる仕組みで高速に情報の交換をしながら指令を出し、体の仕組みを保っております。
この仕組みをしっかりと維持するためには、脳細胞に大量の血液が必要です。
これには「咀嚼」いわゆる「噛む」ことが非常に重要であることがこれまでの研究の結果、明らかになってきました。
脳細胞の機能の低下が認知症を引き起こします。
即ち、脳細胞の血の巡りが悪くなると認知症になるのです。
認知症を防ぐには脳血流量を下げないことが非常に重要であることであるのです。
健常者が歯を失い義歯になると脳血流量が低下することがわかっています。
インプラントでしっかりと噛める場合は脳血流量は維持され、認知症のリスクを減らすことができます。

「摂食」と「嚥下」について

摂食や嚥下の機能からもインプラントを見ていくことも重要です。
食事は先ず食品を口に入れ、噛んで咀嚼し、舌でまとめて飲み込みます。
歯を失い義歯になれば噛む力、舌で食品をまとめる力は低下します。
場合によっては食べようという意欲も減少していきます。
この一連の動作を「摂食」と言います。
「嚥下」とは飲み込んだ食品をきちんと胃へ送る事が大切です。

それには気管と食道を分ける「喉頭蓋」という部分を無事に通過して胃に送られなければなりません。この部分が無事に通過できないと誤嚥を起こし、「咽る」という状態になります。そして食品が気管から肺に入り込み、肺炎を起こしてしまいます。これを誤嚥性肺炎と言います。
義歯ではこの摂食・嚥下の過程でも機能は低下します。
噛むときに歯から脳へ送られてくる刺激が減少するからです。
インプラントではその代償を咀嚼筋が果たし、この機能はほぼ維持されると考えられています。

 

これからインプラントを考えている方へ

インプラント治療の危険についても触れてみましょう。
診査診断は非常に重要です。
手術を伴うものですから、術者の技術は非常に重要です。
技術がなければ事故に至ります。偶発症や後遺症も起こりうります。

歯科用CTやレーザーなど最新の設備が有るに越したことはありません。
それ以上に大切なことはそれを使いこなせる技術です。
技術がなければ、それらの優れた機械の特性は生かせません。

歯科医師との関わりも非常に重要です。
要望を聞いてくれるのか、説明はどうか、治療に理解納得できているか、信頼できるのか、などは特に重要です。
最後は、他の人のアドバイスではなく、どこの医療機関にかかり、どんな治療を受けるのかは自分自身でお決めになってください。